偶然の成功の積み重ねアメリカで数百人の成功したビジネスパーソンのキャリア分析をしたところ、その八割がもともとそうなることを目指していたのではなく、今の自分は偶然の積み重ねの結果だと答えた。スタンフォード大学のクランボルツ教授はこの結果に注目し、最初に目標を設定するよりも、自分にとって好ましい偶然が起こる行動をとることのほうがキャリアづくりにはプラスに働くという「プランド・ハップンスタンス(計画的偶発性)理論」を打ち立て、1999年にカウンセリング学会誌に発表した。 たしかに功なり名を遂げた人に話を聞いても、キャリアの最初からそこに向けて、一直線で突き進んできたという人はほとんどいない、というか記憶にない。 組織人事コンサルタントの第一人者である高橋俊介氏によれば、将来の目標を先に決め、そこに向かって詰め将棋のように進んでいくという発想が、想定外の変化が当たり前のように起こる21世紀にはいちばん危険だという。 たとえば、新卒で入った会社で定年まで安定した人生を送りたいからと大企業ばかりねらって就職活動を行い、首尾よくすべりこめたとしよう。 30年前だったら、それは正解だったかもしれない。 ところが、現在は大企業の社員といえどもリストラと無縁ではないし、定年まで会社が安泰という保証もない。 あるいは、つぶしのきくスキルを早めに手に入れておけば、最悪、会社がどうなっても転職に困らないからと、20代に必死に頑張ってスキルアップを図ったとしても、30代になったらそのスキルでできることは、コンピュータに置き換えられていたり、東南アジアにアウトソーシングされたりしているということも、十分考えられる。 あのトヨタやソニーだって、10年後どころか5年後や3年後の経営状態がどうなっているかわからないのだ。 思い込みでゴールを設定し、これさえやっておけば大丈夫と他のことに目をつぶっていたら、環境が変わった途端、にっちもさっちもいかなくなってしまう。 プランド・ハップンスタンス理論によれば、キャリアづくりにとって重要なのは、好ましい偶然ができるだけたくさん起こるような生き方であり、そのためには豊かな好奇心と、チャンスを逃がさないフットワークが必要だという。 それは、とりもなおさず、何が無駄で何が役に立つかということを、あまり近視眼的に考えず、とりあえず与えられたことは何でもやったほうがいいということだろう。 そうしているうちに、自分の好き嫌いや時代の流れがだんだんとわかってきたら、本当に自分が進みたい方向に足を踏み出せばいいのである。 『一流の人の考え方』日本実業出版社 |